起業しやすい風土に 変わる仕事場
=2017/04/05付 西日本新聞朝刊=
https://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/article/321124
「ドローン(小型無人機)が被災地の3D地図を作り、住民の位置を対策チームに送信します」。3月中旬、中南米プエルトリコ出身のクルス・ホセさん(32)は福岡市のセミナーで自社ドローンを披露した。
昨年春、元米航空宇宙局(NASA)研究者や日本人とともに、ドローン設計ソフト開発「日本コムクエスト・ベンチャーズ」を設立。生産が難しいとされる3種類の翼を持つドローンを設計する技術を持ち、熊本地震後は災害現場での活用にも取り組む。
九州大大学院博士課程修了。「ドローン市場は伸びる。武道、ゲームがある大好きな日本で成功したい」と笑顔のクルスさん。技術面は得意だが、創業で最も苦労したのは会社登記、印鑑証明、税金といった手続きだ。「せめて英語で起業方法を示してほしかった」
世界銀行の調査で、日本の「創業のしやすさ」は世界89位。手続きの多さやオンライン窓口の未整備が低位の背景にある。
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元シンガポール国立大教授の脳科学者リー・シャオピンさん(62)は昨年夏、国際線の機内で「福岡市に『スタートアップビザ』が誕生」という英語の記事を目にした。そして、自国で会社を共同経営する妻とすぐに来日した。
約30年前、九大で学んだ2人。「私たちの『地元』で起業したい」。リーさんは睡眠を促す枕や居眠り運転を防ぐ機器の発売を準備しており、市内の工場で約10人を雇用するつもりだ。
外国人が起業する場合に必要な「経営・管理」の在留資格は▽500万円以上の資本金や出資▽2人以上の従業員-のどちらかを満たす必要がある。2015年12月、福岡市が国家戦略特区を活用して始めた同ビザ制度は、要件確保に半年の猶予を与えた。
リーさんは同ビザを申請。さらに市の創業支援拠点「スタートアップカフェ」では、弁護士や行政書士、不動産会社が相談に乗ってくれた。専門家の手助けで、日本の行政手続きの煩雑さも改善された。「驚くほどのスピードで市は支援してくれた」と感心する。
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スタートアップビザの申請は、当初予想を上回る31件(3月末時点)。ただ外国人の中には「要件確保の猶予が半年では不十分」「IT起業に資本金500万円は必要ない」など、一層の緩和を求める声も多い。大分県は今年3月、留学生の起業について、資本金の額を300万円へ緩和する特区制度を国へ提案した。
制度面以外の課題もある。スイスのビジネススクール「IMD」が世界各国の経営幹部などへ聞く競争力調査では、日本の「文化的寛容さ」を示す順位は56位だった。同スクール北東アジア代表の高津尚志氏(51)は「日本人だけで日本経済が成功できたのは1980~90年代まで。外国人を含めた多様性の無さが経済停滞の一因」と訴える。「『異質』な意見やアイデアを得て、外国人とともに事業を生み出す柔軟性が重要だ。行政や企業だけでなく、教育や暮らしやすさも含めた受け入れ態勢が求められる」
=おわり